※原文に章タイトルはありません。分かりやすいように勝手につけています。
Chapter.1 ヴェルト
1955年10月、貴重な実験サンプルとして扱われていた青年Ω1は、イギリスの帝国研究院42実験室に引き取られた。名もなき青年はリーゼル・アルベルト・アインシュタイン博士によってヴェルト(Welt:世界)と名付けられる。
帝国研究院42実験室(Part3) 天命本部が直接指揮する独立組織。ガロア分析とチューリングのシュミレーションに基づいた研究機構。
リーゼル 物理学者アルベルト・アインシュタインの長女の名前。実在の彼女は1902年に生まれわずか1歳で亡くなっている。
ヴェルトはかつて孤児であった。1952年にベルリンで起こった崩壊現象での唯一の生き残り。彼を保護したのは天命。自分のことは何も分からない。しかし、複数の言語(ドイツ語、英語、ロシア語、ラテン語、日本語、中国語)を話すことができた。ヴェルトは崩壊の子、すなわち律者であるかもしれないとして天命で実験の対象となった。そして実験室を転々とし、そのたびに苦痛を伴う実験が繰り返された。
死ぬことも考えたヴェルトを支えたのは友人フールαからの手紙。匿名ゆえに誰かは分からないが、彼の話す「聖女カレン」の話はヴェルトの興味を引いた。
自暴自棄の傾向があるヴェルトに、アインシュタイン博士は仕事を与えることにする。ヴェルトはもう実験用のモルモットではない。彼に与えられた役目は実験室のアシスタント。休日にアインシュタインやテスラが頭を使うことなく羽根を伸ばせるよう、遊びの計画を立てるのが彼の役目となった。
Chapter.2 シュレーディンガーからの手紙
Inperial Institute(Part1) ロンドンに実在したイギリスの帝国研究所。現在はその建物が名門理工系大学インペリアル・カレッジ・ロンドンの中にある。
平日は自由に行動して良いという許可を得たヴェルトは、研究所内の図書館にやってくる。そこで奇妙ながらも親切な職員に手助けして貰い街の地図を借りることができた。
ヴェルトは日本人?(Part2) 誰もいなくても「ただいま」と挨拶する習慣のせいで、日本人かもしれないと天命が本気で調べたことがあった。
実験室に返ってきたヴェルトはアインシュタインと共に街に繰り出しランチを楽しむ。
博士の年齢(Part2) アインシュタインは1955年時点で17歳、テスラは21歳
ランチから二人が返ってくると、シュレーディンガーから手紙が届いていた。アインシュタインの興味をひく古いゲームを見つけたからビリングス(アメリカ西部モンタナ州)へ来るようにと誘う内容だった。
Chapter.3 アメリカへ
ヴェルトは博士らと共にアメリカへ旅立つこととなった。アインシュタイン博士から渡されるパスポートには「ヴェルト・ジョイス」という名前が。ジョイスという姓は小説「ユリシーズ」を書いたアイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスからとられたものだった。
ヨアヒム(Part1) アメリカ行きについてきた図書館職員の息子の名前。
エイダ シュレーディンガーの手紙に記されていた謎の記号部分。手紙を持ってきた図書館職員はエイダ(Ch2-3)と言った。アインシュタインによれば5万年前の情報処理装置の名前(Part2)。
謎の文字 新ティフィナグ文字という実在する文字。フォントもある。ティフィナグ文字から派生し20世紀に作られた比較的新しい文字。アルファベットに対応している。 トゥアレグ語を書くために使われる。トゥアレグ語はアフリカのサハラ砂漠あたりでトゥアレグ人が使う言葉。
ニューヨークの空港で一行を待っていたのは謎の二人組。彼らは大主教の命で、博士らに「死海文書」の未公開部分を渡しに来ていた。北米支部だけの手柄にさせないために、博士らを助ける意図らしい。
Chapter.4 ビリングスの雪
エリアス・ノキアンビルタネン(Part1) フルネームの設定はあるが作中ではずっとフィンランド人と呼ばれる。ヴェルトとは図書館の職員として出会う。古代文字の専門家(Ch4-3)で、アインシュタインらに同行。ドイツと中国のハーフの妻がいるが、考古学者で一年のうちほとんどを家に帰らない。そのため一人で息子の面倒を見ている(Ch3-2)。
航空機を乗り換え、モンタナ州ビリングに到着。空港で出迎えたのは北米支部責任者のプランク、シュレーディンガーだった。プランクはアインシュタインの指導教官で見知った相手。一行は和気あいあいと夕食の時間を過ごす。
夕食後、冷えこむビリングで雪を見たヴェルトは、見たことがないはずなのに懐かしいと感じる。しかし、アインシュタインは既視感、海馬体が興奮しているせいでそう思っているだけだという。
Chapter.5 前文明の遺跡
翌朝、プランクの運転で一行はイエローストーン国立公園へと出発した。目的地への道すがら、基礎知識もないヴェルトは博士達から雑談混じりの説明を受ける。
シベリアのバビロン実験室の噂(Part1) シュレーディンガーによると大主教に逆らったものはここで人体実験を受けることになるという。
崩壊がもたらす災害(Part2) イエローストーンの火山が噴火した場合、地球の平均気温が10度下がり、飢饉と疫病が蔓延すると言われる。ヴェルト達が生きている間は噴火の可能性は低いが、崩壊現象の一部として火山が噴火することはあり得る。 ペスト、氷河期、世界大戦の元凶は崩壊。世界大戦の戦犯は崩壊エネルギーに侵食されていた。 哺乳類のオス、つまり人間の男性は崩壊エネルギー耐性が低い。戦犯とヴェルトはその例外である。
■前文明(Part2) 前文明の起源は紀元前5万3000年ほど前のアストラハン3号遺跡まで遡る。彼らの文化区域は日本海、バルト海、ペルシャ湾に至る区域。彼らの文明には「全世界規模」で統一された文字、技術があり、現文明に比べて多様性がなかった。また、アメリカをまるごと無人の原始状態で保護した。 テスラによれば、早い段階で崩壊エネルギーを利用することができていた。崩壊エネルギーが欠乏している地域を活用する意味がないため、アメリカに居住することがなかったという。 注:崩壊エネルギーに関してこの章でアインシュタインは長々と解説している。簡単に言えば虚数内部エネルギーが崩壊エネルギーもしくは崩壊エネルギーの重要な構成要素であるということらしい。
Chapter.6 メイデンキャッスルの騎士
一行はイエローストーン・レイクに到着。ヴェルトは博士達とともに国立公園の湖のひとつダックレイクに向かった。水が抜かれたダックレイクの湖底は、自然の湖ではなく採石場のような様相を呈していた。
ダックレイクではテスラが苦手とするナンシーがお出迎え。
■ナンシー・トーマス・アルバ・エジソン(Part1) 北米支部のスポンサーで、事実上の責任者。親が資産家の上、本人は発明と商売の天才。「北米支部の全てを買い取った」とまで言われる。テスラとは腐れ縁、かつ彼女を気に入って?おり、からかって遊ぶことが趣味のようである。
ダックレイク湖底の遺跡前にやってくるヴェルト達。入り口の金属扉には謎の文字で「Eba Dagami Ha Nu」と記されていた。エリアスの訳では「我々は未来の為に戦う」
地下洞窟の遺跡を探索する一行。するとアインシュタインがモスキート音(若者にしか聞こえない高周波の音)を聞いた。アインシュタインの先導で音の出どころを探す。道中には現代人が残したものと思われるライフルが落ちていた。
遺跡の奥で音が聞こえていた扉を開けると、遺跡とはちがう妙にきれいな部屋がそこあった。一行は部屋の天井に現代英語の文言を発見する。文言は、部屋にあった装置(テスラによると超音波魂鋼レコーダー)に何かしらの情報を残したことを示唆していた。書いた人物の名は「メイデンキャッスルの騎士 H・ロンディニウム・ドイル・A」(H Londinum Doire A、以降H.Aと表記)

装置を解体してみると中には何かをはめる台座があったが、そこには何もなかった。何らかの危険があり、魂鋼を別の場所に移していたのか。アインシュタインは、その場所は北アイルランドのロンドンデリーだと推測する。
■ロンドンデリー(Part2) ロンディニウムとはローマ時代のロンドンの旧称。メイデンキャッスルとは一度も陥落したことのない城を指す。ロンドンという都市名で、かつメイデンキャッスルと称されるのは、北アイルランドのロンドンデリー。
ヴェルト達はロンドンに帰ってH・Aのついての調査をすることになった。天命本部と北米支部との調整をするためプランクも同じ飛行機に搭乗。古代文字の専門家であるエリアスはアメリカに残ることとなった。帰りの飛行機の中で、プランクと内緒話をするヴェルト。H.Aは何故、魂鋼を別の場所に移したのか。魂鋼を欲し、H.A一人では対抗できない存在とは何か。プランクの問いに、ヴェルトにはひとつだけ心当たりがあった。