
噂:冷気
時期:第七次崩壊後、ケビンの副作用が落ち着いてきた頃
登場人物:伏義、アーウィン
伏義が噂好きのアーウィンにケビンに関する噂を聞く。
伏義は「ケビンの周りに猫が現れる」という噂についても聞くが、アーウィンは「ただの見間違いだ」と否定。
アーウィン:後方支援部隊所属。各追憶の皿の「噂:〜」シリーズに登場。融合戦士かどうかは不明。アーウィンは男性名だが、一人称は「私」。アーウィンはシュレーディンガーのファーストネームでもある。前文明のシュレーディンガーに当たる人物の可能性もあるが、見た目の情報がなく喋り方も異なるため断定はできない。アインシュタイン博士に当たる人物は漫画の方で登場している。
全文
「伏義……また君か?だめだ、何を言われてもだめだ。前回も君のせいで情報が……は?何?基地で一番多くの情報を掴んでるのは私だから?まあ、それは間違ってないけど……」
「でもこれは別に特殊な情報じゃないし……待って、君、最近ケビンに会ってないから知らないのか?」
「彼の副作用はもう落ち着いてるよ。また人と接触することはできないけと、少なくとも周りの仲間を誤って傷つけることはもうないよ。」
「はあ、そういえば、第七律者の事件が終わった後、一人で湖の上を歩くケビンの姿を見かけたことがあるよ。」
「歩く?」
「そう、歩く一あの頃、彼が通ったところは、低すぎる体温のせいで凍ってしまうんだ。」
「でも、別の角度から考えると……別に悪いことじゃないと思う。」
「彼らのような融合戦士にとって、低温は別に大したことじゃない、そうだろ?」
「君も知ってるだろ?暑い季節になると、ケビンの人気は一気に高くなるんた……あのメビウス博士も頻繁に彼の周りに現れるくらいだ。」
「ああ。」
「そうだ、アーウイン。たまにケビンの周りに現れるあの猫……どういうことかは知っておるのか?我も人から聞いた話だが。」
「は?猫?あリえない、あの温度を引えられる猫なんているわけがないよ。きっとたたの見間違いだ……」
悪魔
時期:第七次崩壊の頃
登場人物:メビウス、ケビン
火を追う蛾のスパシー博士がスゥに接触し、崩壊病研究の指導を始めた頃の話。漫画「伝承」と同時期。
メビウスもスゥの存在を知り、ケビンの関係者ということで、ケビンの所へ話をしに来た。沈黙するケビンにメビウスは「純粋な理性(メイ博士)が本当の悪魔」だと告げる。
悪魔:同時期のスゥ側のエピソードを描いた漫画「伝承」でもスパシー博士が「悪魔と戦うにはまず自分が悪魔にならねばならない」と言う。
全文
「彼はいい素質を持ってるわね。とう思う?」
「なせ僕に聞く?」
色の髪の少女は持っている書類を置き、顔を上けて冷たい表情をした男性を見る。
「誤魔化さないで、ケビン。あなたと彼の関係なら知ってるし、あなたが火を追うに入ってから彼と違絡しなくなったことも知ってる……彼をここに来させないためたったんでしょ。」
「彼はと真逆な人間だ。君に協力しないはずだ。」
「一その前提は、わたしたちに他の選択肢がある、だけどね。」
「彼なら理解してくれる、そうでしょ?」
「……」
沈黙した男を見て、少女は満足したようだ。彼女は笑いながら、蛇のようなに楽しげな光を浮かべている。
「いまさら善人ぶっても意味ないわ、ケビン。」
「わたしはとっくにあの一線を超えたもの、誰よりも分かるわ。てもあなたの想怨い人のメイはどうなの?わたしと何の違いがあるというの?」
「あっ、確かに違いがあったわね。」
「彼女はわたしよりもすっと残酷で、冷たい女――彼女が取った全ての行動は、理性を元にした選択だから。」
「純粋なる理性……それこそが本当の悪魔。あなたも分かるでしょ?」
赤い氷
時期:第十一律者(約束の律者)討伐直後
登場人物:ケビン、エリシア
約束の律者を倒した後、ケビンは戦いの結果についてエリシアに問い詰められる。
華によって約束の律者の結界が解除され、ケビンは律者にとどめを刺した。約束の律者は人類の意識を残していた。この結末は華が見たかったものではない、とエリシアはケビンの選択に異を唱える。
エリシアは気絶した華を抱えて惨劇の場を去った。エリシアがいなくなった後、ケビンは微かな呼吸音を聞き、地面を掘った。するとそこに埋まっていたのは千劫だった。
華の気絶:渡世の羽の第一定格出力「太虚剣神」を使ったため。現文明の対シーリン戦でも同様に第一定格出力を使った後、力尽きて意識を失った。シーリン戦では太虚剣神を崩壊の意思が代わりに受け止め、仕留めそこなった。しかし、崩壊の意思との繋がりが断たれ、シーリンは弱体化。同様に約束の律者も崩壊の意思との繋がりが切れ、結界が解除さたものと思われる。
全文
支援部隊が到着した時、第十一律者はすでに不可解な十字架に吊るされていて、息はなかった。
意志が最も堅い戦士も涙した。ここで結末を迎え、かっての友人と共に亡くなると思っていたからだ。
しかし……勝利は突如としてやってきて、常識では計りきれない。
彼らが目にしたのは氷、至るところにある赤い氷だ。
戦いはすてに終わったが、あの男の周りにある独特な冷気が今でも戦場を覆っている。
そしてこの土地で流れた血は、飛び散った形のまま空中で凍結している。
その全ての中心に、紫色の光が点滅する。あの永遠に咲くはすたった水晶の薔薇も、目の前の惨劇でしおれて、砕けていった。
工リシアは気絶した少女を抱えて、男の前に立つ。
「ケビン……彼女になんて言うの?これは彼女の見たかった結未じゃないわ。」
「華なら理解してくれるさ。」
「僕がかてて言ったように、僕たちに他の選択肢はない。」
氷と霜が葉脈のように男の足元から伸びていく。
周りの冷気がますます強くなる。
「ねえ、ケビン……」
「認めないかもしれないけと、今のあなたは、メイの意志に縛られているようにしか見えない。あなたを理解することは……難しくないわ。」
「今たって、あなたはただメイの命令を実行してるだけ、それはあたしも分かるわ。」
「てもね、ケビン……倒れた人たちを見て。みんなあなたの仲間、誰よりもあなたの力と決意を信じてきた。」
「最初から、彼らは自分たちの結末を分かってた。それても何の迷いもなくここへ来た……あなたを信じてたから、あなたならみんなに勝利と希望をもたらすと信じてたから。」
「彼らの顔を見て、ケビン。あなたの涙は……凍ってしまうの?」
「……」
「彼らの希望は、より多くの人々の希望になった。相手の立場になったとしても、僕は同じ選択をする。」
「僕たちは去に執着してはいけないんた、エリシア。僕たちは、人類の未来のために戦っている。」
「……約東を守らない人は嫌いよ。」
工リシアは腕の中て眠っている少女を見て、その額に自分の額を当てる。
「けと今、あなたのせいで、彼女とした約柬はもうニ度と守れなくなった。」
彼女はそれだけ言って、華を連れてその場を去った。
男は赤い氷に回まれて、一人で長く佇んだ。
彼は勝者。たが、その勝者に歓声をあける人はいなかった。
誰も、修劇に歓声をあげようとしないからだ。
男は何かに気付いた。
音、呼吸音が聞こえたのだ。
衆人に見られる中、彼はあの破壊を象徴する大剣を手にし、足元の凍った大地を掘り始めた。
怪訝な視を浴びながら、男は必死に掘った。あの弱々しい呼吸音がはっきりと聞こえるまで……。
「……」
「まだ立てるか?千劫。」
海上の旧事
時期:第十律者(支配の律者)との交戦中
登場人物:メイ博士、ケビン
メイ博士が空白の鍵と天火聖裁で支配の律者を倒した時のエピソード。漫画「神の鍵秘話 空白の鍵」で描かれなかった二人の会話。
メイ博士は律者の狙いが神の鍵であると気づき、神の鍵研究施設を海上の孤島P-21へ移設。ケビンの部隊を駐留させた。支配の律者の疑似律者たちはP-21へと侵攻。疑似律者L10-461(千劫の副官であるエイマー)によってケビンが消耗してしまう。
メイ博士は空白の鍵の装甲をまとい、ケビンに代わって天火聖裁で疑似律者を焼き払った。
空白の鍵:これが最初の実戦投入。しかし、肉体への負荷が著しく神の鍵計画は停止された。
崩壊との戦いには戦士としての覚悟が必要。メイ博士は身をもってケビンにそれを伝えた。
全文
いや、メイ。そこまでする必要はない。」
「もう十分た。僕の後ろにいて。やつらは……一人も残さない。」
「……」
「ケビン、今のあなたはまだそれができない、私たちは分かってるわ。だから、天火裁はしばらく私が保管する。」
「L10-461、まさか彼が他の力を持っているなんて。あなたをここまで消耗させた……ごめんなさい、こういう事態を予想できなかった。」
「ても今は……時間がない、ケビン。炎の律者の力を復活させないと、私たちは第十律者を完全に倒せないわ。」
「それに、すっとあなたに伝えたいことがあったの……今がその絶好のチャンスよ。」
「いや……空白の鍵の負担は大きすぎる。それ以上使ってはいけない。」
「それに、やつらを倒すことは……僕の責任だ。」
「ケビン。」
「あなたは戦士よ。」
「……」
「もちろん、私一人を守るたけなら、今のあなたでもできるわ。」
「たけと、そのせいでやつらを一網打尽にする機会を見失うことになったら……もうニ度とそんな機会はやってこないわ。」
「もしこういう状況がニ度と起きてほしくないのなら……これから起きる全てを、きちんと心に刻みなさい、ケビン。」
……
……
……
支援部隊が戦場の片付けに駆けつけた時まて、ケビンの目に映ったあの炎のような赤は消えることがなかった。その一撃の皹きは、言葉では表現できないものたった。
「メイ、これが君の伝えたかったことか?」
「ええ、ケビン。」
「もし……私でさえそんなことがてきるなら……きっとあなたもできるはす……」
「ううん……私よりすっと上手にできるはず……この空白の鍵の限界を遥かに超える……」
「ただ……そうなりたいなら……自分は何のために戦ってるか……それをはっきり理解しないといけない。」
「けど……あなたにとってそれは……難しすぎるわ。」
お見舞い
時期:推定で第六次崩壊後?ケビンの手術前。
登場人物:エリシア、ケビン
入院中のケビンと見舞いに来たエリシアとの会話。
火を追う蛾の内部抗争により、何者かがサクラにメイ博士暗殺を依頼。夜中に湖でデート中だったところを襲われる。融合戦士になる前だったケビンはサクラを迎え撃って負傷し入院。
エリシアはケビンから事件の状況を聞き、自身の推理が合っていたことを確認した。
エリシアの台詞「例の殺し屋をこっそり隠してる」メイ博士は毒蛹を私兵化した後に、サクラを正式に火を追う蛾へ招いた。
全文
「エリシア?」
「はいはい、ケビン。大人しくベッドで横になりなさい。」
「全く……百戦錬磨なんでしよ、とうしてこんな大怪我をしてるの?」
「……」
「何か用事でも?」
「あなたねえ……せっかくフルーツの盛り合わせを持ってきたのに。あたしが怪我した友達のお見いに来ちゃだめなわけ?」
「それに、あなたたってあたしに何かお願いするかもしれないし。」
「……」
「ケビン、聞いたんだけど……あの桜色の髪の殺し屋、彼女が使った武器は……あの刀なの?」
「あれは火を追う蛾のもの……あの殺し屋、それを手に入れる手段はないはず……そうよね?」
「……」
「きっと、あなたも同し答えを出してるはすよ――問題は火を追う蛾の内部にある。」
「たた、分からないわ、ケビン……そんな恐ろしい相手にやられてるなんて、あなたは一体何をしたの?」
「……」
「彼女の標的は僕じゃない、メイだ。」
「やつはりね……夜中に一人て湖に行って船を漕ぐなんて……そんな粋なことをするようなタイプじゃないもの。」
「でも彼女とデートしてたなら、辻褄が合うわ。」
「……」
「はあ……表では何もないけど、メイの提案は全員に認められるわけがない。強く反対されることもあるって、あなたも知ってるはすよ……明るいところでも暗いところでもね。」
「けと、彼らが行動に出るきっかけが何なのか気になるわ。もうしき実行される神の鍵計画?それとも放置された計画?」
「……」
「まあ、あなたがそれを知ってるなら、ここで横になることもないわね。」
「うーん……状況は大体把握したから、先に失礼するわね。時間があったらまた来るわ。」
「待って、エリシア。」
「ん?何?あなたたちが例の殺し屋をこっそり隠してることなんて……あたしは何も知らないわよ?」
「その雇用主の正体についても……手がかりが全くないわ、本当よ。」
「……」
「いや、だから……」
「エリシア、君がフルーツの盛り合わせを全部食べたんだから……ついでにゴミも片付けてくれないか?」
盲目
時期:第十二律者(侵蝕の律者)封印後
登場人物:ケビン、メイ博士
崩壊の侵蝕により余命わずかとなったメイ博士は、英傑を集めて会議を開く。そして「どうやってエリシアと知り合ったの?」か聞いた。
参加者について:参加者は9人。欠席者はエリシア、華、千劫。侵蝕の律者戦後のためサクラもいない。よって13 – 4 = 9人となる。
全文
彼らがケビンに残したのは9番目の椅子――最後の椅子だ。
しかしケビンはそこに座ることなく、そのまま通り過ぎて、メイの後ろに立った。
「僕が彼女と対立する立場に立つことはない。その椅子、他の者に与えるといい。」
灰色の照明が出席者たちを照らす。エリシア、華、千劫……欠席者も少なくはない。
彼らが行動を共にすることは少ないが、こういう重要な会議に欠席者が出る状況は今まで一度もなかった。
ここに集まった人たちは、それぞれの考えがありながらも、沈黙を貫いている。
見えないヒビが、その沈黙の中でゆっくりと広がっていくことを彼らは知っている。
しばらくして、感じ悪い冷笑がこの恐ろしい沈黙を破った。
「はぁ、ほらね……こうなるって言ってたでしょ。」
「何の結果にも繋がらない討論……時間の無駄よ。」
「メビウス博士、やめましょう。」
「全員揃ったわけだし今は静かにメイ博士がみんなを招集した理由を間きましょう。」
女性はグラスを置き、軽く拍手した。
それがまるで号令のように、全員は視線をケビンの前にある椅子に向けた。
そこに座っている女性は疲労していて、とても弱く見える――その場にいる誰もが、彼女の体を簡単に壊せるぐらいだ。
しかし、その星空をまるごと映すような目は、誰よりも先に言葉にできないほどの恐怖を感じさせる。彼女と目が合った時は、誰もが思わず目をそらしてしまう。
「私にはもう時間がない……要点を話すわ。」
「みんな、ただの紙の上にあった一つの名前から、今となってはこの世界の最後の閘門、火を追う蛾……本音を言うと、この組織に入った時は、今日みたいな景色を見れるなんて想像もしなかった。」
「私は適格者じゃないし、自分の過ちを正せるほどの時間もない。」
「崩壊に打ち勝つ前に……私は人類としての寿命に負けるかもしれない。」
「だから、あなたたちに託さなければならないことがあるの。」
「今日は、嘘を聞きたくない。」
「みんな、よく思い出してほしい……」
「あなたたちは、どうやってエリシアと知り合ったの?」
鋳金
時期:第十一次崩壊後、人類最後の3都市が攻撃される前
登場人物:アポニア、ケビン
至深の処での会話。ケビンは至深の処のアポニアを訪ねる。
約束の律者戦でスゥによって千劫の戒律が解除された。ケビンはアポニアに再び戒律をかけるよう依頼。アポニアにそれは嘘だと看破される。真の目的は古の楽園の建造。スゥだけでは古の楽園を作るのは不可能でアポニアの協力が不可欠。ケビンはアポニアを至深の処から連れ出した。
全文
至深の処。
男の周りにある冷気は、ここの暗さによく合っている。
この場所が人に与える第一印象は、こうだ——暗くて、寒くて……
絶望的。
「また自分をここに閉じ込めているのか、アポニア。」
「ケビン?」
「あなたがここに来るとは思わなかった。」
「いや、あなたは私よりずっとここにいるべきだあなた以上に、あの約束の惨劇の罪を償うべき人はいないはずでしょう?」
「今は、まだ罪を償う時じゃない。」
「それに、自らここへやってくるのは君一人だけさ。行こう、君が千劫に施した『戒律』が解除された。彼を再び制限できるのは君だけだ。」
「嘘は罪だよ、ケビン。」
「アポニア君は唯一生き残ったた精神感知型融合戦士じゃない。」
「千劫の『戒律』を解除したのは……スウだ。彼はそれを無意識にやってみせたんだ、あの約束の惨劇の最中で。」
「スウ……彼か。彼の成長は驚くほど早い。」
「だけど断るよ、ケビン。」
「私たちが向き合うべき敵はもう、昔とは違う。『戒律』は手綱、禁令だ。しかし今は……獣に戻らせ、神のために新たな生贄を献上ししようとしている。」
「それに、ケビン気付いてないの?あなたがもたらす脅威は、人類にとっては千劫を上回っている。」
「凶暴な獣と刃を持つ虐殺者……より恐怖を感じさせるのは、明らかに後者だ。」
「そう考えてもいいが、僕は君と言い争うために来たんじゃない。」
「けれど、あなたは千劫のために来たわけでもない、ケビン。」
「嘘は、罪だよ。」
「……」
「この前の提案、古の楽園を……僕たちは試してみた。結論は……君なしでは不可能だった。」
「君とスウが力を合わせないと、僕たちは最終目標を達成できない。」
「……」
「……神はそんなに早く新たな使徒を降臨させたの?その絶望の中でしか実行されないような計画が、なぜそこまで早まった?」
「……」
「アポニア、君が自分をここに閉じ込めている間に……」
「人類にはもう、最後の三つの都市しか残っていない。」
「……」
「それに、今日ここに来たのは……」
刃は鎖を断ち切り、烈炎が燃え上がった。そして、周りの暗闇を燃やし尽くす。
「別に君と話し合うつもりはない。」
「鎖も、暗闇も、今日からは何もかもが存在しなくなる。」
「アポニア、制約者としての役割を果たせ。」
新生
時期:推定で第十律者(支配の律者)が討伐された後。メビウスが「事故」で取り調べを受けた後。
登場人物:メビウス、ケビン
メビウスによってケビン2度目の手術が行われた時の会話。
メビウスは「事故」(過度超変?)により拘束され、取り調べを受けた。その時、メイ博士を呼ぶように言い、二人っきりで何かを話した。ケビンは華とスゥの記録を見て、メイ博士はこの件に関わるべきではないと判断。メビウスに融合戦士の秘密を問いただしに来た。
全文
「あら、誰かと思えば……ケビン、ここに来たのは初めてなのよね?」
少女は持っていた試験管を置き、その「招かれざる客」を見る。
「言ってみて。多忙なあなたが、ここに何しに来たのか。」
冷気が迫ってくる。男は二歩前へと進む。いつものように何の音もなく。
「ちょっと、やめなさいよ。そこでいいから、これ以上近づかないで。」
「ここの精密機器はあなたの体温に耐えられないわ……用事があるならそこで言いなさい。」
「……」
「事故報告は読ませてもらった、メビウス。」
「わたしに関する事故報告は多すぎるから、早く要点を言ってほしいんだけど。」
「……蛇。」
「……」
「融合戦士に関して……君は隠し事をしていた。」
「それに、僕の考えが正しければあの日、取調室で僕が席を外し、メイと君が二人きりになった時……恐らくそれに関する話をしていたはずだ。」
「ハッ……そんなことに興味があるの?」
少女は獲物を観察するようにじっと目の前の男を見つめる。
「あなたはもう人類の頂点にいるのよ、ケビン……何?まだその強さに満足できないの?」
「それに……もう分かったなら、どうして直接メイに聞かないの?あなたにとって、彼女は全知全能でしょ?」
「これ以上メイに負担をかけたくない。」
「当時僕はその場にいないけど、華とスウの記録を見たところできればメイは永遠にこの件と関わらないほうがいいと、僕は思っている。」
「ハッ、こういう時だけは気が利くのね。」
「けど……それ、あなたにとって本当に必要なの?」
「いつか使うかもしれない。そのための準備だ。」
「……」
「分かった。それがあなた自身の望みならついてきて。」
「本音を言うと、わたしも見てみたいわ人類の中の最強が、更に高い限界に触れられるかどうか。」
「あっ、そうだ。左手の棚に低温防護服がある。自分のサイズを選んで、履いてから入りなさい。」
……
……
……
準備作業はほとんど完了した。
少女は手術台の上にいる男を見て、眉をひそめる。
「ねえ、ケビン……融合戦士になった時のことを思い出したりする?」
「あの時、わたしもこうして手術台の横であなたを見てたわ。あっ、あの時メイもいたわね……あなたよりもずっと緊張してたみたいだったし。」
「僕は過去を思い返さない。」
「フン、当然でしょ。あなたはずっと過去に生きてるから、思い返すまでもないわ。」
「……」
「はぁ、いいわ。では始めましょう、ケビン。」
「かなり時間がかかるわ残念ながら麻酔はもうあなたに効かなくなった。これからやってくる苦痛に、自分の意志で耐えるしかないわ。」
「だけど割に合うと保証する。全ての苦痛を体験した後、きっとあなたもわたしのように……」
「生まれ変わったって実感するわ。」
反撃
時期:第八律者(識の律者)と交戦中
登場人物:ケビン、エリシア
識の律者の攻撃によって、火を追う蛾のメンバーが次々と眠りに落ちていた状況での会話。
ケビンは律者の侵略を防ぐ「戒律」を手に入れ、前線に戻ってきたところエリシアと遭遇。エリシアはメイもサクラも無事であること、スゥによって反撃が既に始まっていることを教えた。
識の律者戦で主力となったのは精神感知型の融合戦士。彼らは観測機という装置を使って夢の中に侵入、スゥが律者の居場所を特定した。
全文
――まだ立てる人はいるのだろうか?
通路を素早く通る男は、そう疑わずにはいられない。
彼はすでに基地の中をしばらく歩いた。しかし目に映るのは、夢に落ちる人たちばかり。
彼らは様々な姿勢で床に倒れ、点滅する照明の下で意味不明なうわ言を口にしている。
「はぁ。ケビンったら……本当にムードが分からないんだから。」
「夢の世界に入る、なんて不思議でロマンティックなことでしょう♪」
――かなり後のことにはなるが、男の仲間は彼をそうからかったことがある。
しかし男はそう思わない。未来の彼もそう思わないし、この瞬間の彼もそうである。
倒れた人たちは、永遠に続く夢に溺れている。そして気付かれることなく、一歩ずつ死に近づいていく。
そして、まだ意識を失っていない者たちが見ているのは、終わりのない悪夢である。
男はペースを上げる。
彼は滅多にそんな気持ちにならないが、今の彼は……とても焦っている。
「メイ……」
心配はいらないはずだった。彼女の傍にいる護衛は彼にとって最も信頼できる戦友なのだから。
しかし、彼らが直面している敵は……剣で斬れる相手ではない。
……
……
……
「ハーイ、ケビン。」
よく知っている声が聞こえて、彼は我に返る。長い通路の果てに、ピンク髪の少女は壁に凭れている。
「やっと戻ってきたわね。」
「エリシア?どうしてここに?」
「メイは……彼女はどうなっている?」
「安心して、メイは無事よ。彼女は実験室の中にいる、あそこは安全だから。」
「けど……サクラの状態はあまりよくないわ。」
「サクラ……彼女も第八律者の夢の世界に?」
「ええ……幸い、今は眠っただけよ。」
「あたしが間に合ってよかったわ。でないと……」
「でないと……?」
「ともかく、あたしが何とかしておいた。サクラもメイも無事だから、安心して。」
「けど……ケビン、あなたはどうなの?」
「あたしたちの中で、あなたが一番……夢の世界に囚われやすいと思うんだけど。」
「……」
男は沈黙する。彼自身もそう判断したから。
だから、彼はしばらく前線を離れ、こうして戻ってきたのだ。
彼はすでに侵略を防ぐのに十分な「戒律」、夢魔を制約する枷を手に入れた。
今の彼なら――
「そうかもしれない、エリシア。」
「だが僕は、もう第八律者の能力に影響を受けたりしない。」
「反撃を始めよう。」
「はぁ。ケビン……あなたのそういうところが一番嫌いよ。」
「何でも一人で背負おうとしなくていいの。メビウスが信用できなくても、お友達をもっと信用するべきなんじゃないの?」
「スウ……?」
「反撃はもう……とっくに始まってるわよ♪」
以前
時期:第六律者討伐直後
登場人物:ケビン、エリシア
第六律者の最期についてケビンとエリシアの会話。
人類としての感情が残っていた第六律者。ケビンが律者へのとどめを迷ったために多くの人が死体も残さずに死んだ。この結果を悔やむケビンにエリシアは「『少数』のために『多数』を犠牲するような選択をしたらあたしの知ってるケビンじゃなくなる」と諭す。
多数と少数の命を天秤にかけどちらを選ぶか。エリシアはケビンがこれから出す答えと同じだと言い、ケビンに問い返す。
「もしいつか、あたしにトリガーを引いて『多数』の人々を助けられるなら……ケビン、あなたはどうするの?」
全文
彼と彼女は、肩を並べて静かな細長い街の中に立つ。
三日前、そこはこの一帯で最も賑やかな商店街だった。
毎日数千数万の人がそこを通り、そこで話し、騒ぎ、生活を楽しむ……昼夜を問わず。
しかし今、風の音でさえうるさく感じるぐらい静かだ。静かすぎて……心臓の音ですら簡単に聞こえてしまう。
ドン!
男の拳は看板に振り下ろされ、赤い跡を残す。
「……」
「やめて、ケビン。」
「エリシア彼らは死んだ。」
「僕たちの周りを見るがいい彼らは死んだ……死体すら残せなかった……」
「全部……僕のせいだ……」
「えっと……ケビン、誤解してるわ。」
「あたしはただ、人のものを壊したら……弁償しないといけないって数えたかっただけ。」
「……」
「それに、違う。」
「彼らの死はもちろん、あなたのせいではあるけど……あたしのせいでもあるの。」
「……」
「誰も予想できなかった……第六律者に、まだ人類としての『感情』が残ってたなんて。」
「しかし彼らは……何の罪もない一般人が、何をしたというんだ?」
「彼らは想像もできないだろう。自分の命が僕のせいで、何の関係もない赤の他人のせいで……こんなにも簡単に終わってしまうな、んて」
「迷ったのは僕だ。僕が……彼らを死なせた……」
「だけど、第六律者を殺し、この災害を終わらせたのも、あなたよ。」
「……」
「ケビン、大丈夫よ……あたしが同じ立場にいても、結局何も変わらない。」
「あたしも同じ疑問を感じるし、あなたと同じように迷い、疑う……」
「あたしも……あなたと同じ選択をする。」
「……事実は変えられない。」
「ケビン。彼らの死は、あなたと、あたしと、それから多くの人々の責任。」
「忘れてほしくない。むしろ、この瞬間を覚えていてほしい。その迷いと『弱さ』を、心に刻んでほしい。」
「……それがあなたよ、ケビン。」
「もしいつか、あなたが『多数』のために迷わず『少数』を犠牲にしたり、『少数』のために『多数』を犠牲するような選択をしたら……」
「あたしの知ってるケビンじゃなくなるわ。」
「……」
「犠牲は……犠牲よ。それに関係する者は永遠にそれを背負わなければならない……それだけなの。」
「だからね、ケビン……あたしたち、この日のことをずっと覚えていましょう。この『弱さ』、この言葉にできない名も無き場所が、あたしたちの中でずっと存在するように。」
「あたしたちが何のために戦ってるか、教えてくれるのは……この気持ちだけよ。」
「エリシア……もし、選択しないといけないなら……」
「君は少数を……それとも多数を選ぶ?」
「……」
「あたしはね……」
エリシアは笑いながらケビンの前に行って、背中を見せる。
「ケビン、あなたも分かってるはずよ。『少数』と『少数』の間には、違いがあるの。」
「誰にも、その心にその少数が存在する……それは多数どころか、どんなものよりも大事なもの。」
「だから……あたしの答えは、あなたがこれから出す答えとは同じ。」
彼女は振り向いて、ケビンの手を優しく取り、自身の額に当て。
「もしいつか、こうして、あたしにトリガーを引いて『多数』の人々を助けられるなら……」
「ケビン、あなたはどうするの?」
願望
時期:第七律者討伐後
登場人物:ケビン、エリシア、メイ博士、サクラ、ディストピア、コズマ、アポニア、痕
ケビンの誕生会。
融合戦士6人とメイ博士でケビンの誕生日を祝う。メビウスはプレゼントのみで欠席。
名前が挙げられた7人
- サクラ
- ディストピア
- メビウス
- コズマ
- アポニア
- 痕
- エリシア
この7人はケビンを除いて最初に融合戦士になった人物で、みな亡くなった。サクラは誕生会の時点で手術済。ディストピアも念動力を使っているためおそらく手術済。コズマは手術前。
第八律者降臨の後、すぐにスゥが手術を受けた。よって誕生会後、立て続けにコズマ達が融合手術を受けたことになる。
全文
「寒い!」
ピンク色の髪の少女は白髪の男の肩を押しながら通路を歩く。
「……エリシア、必要ないと思うが。」
「もう、断らないの!喋っちゃだめ!前に進んで!」
男は少し困った表情をしたが、ワガママな少女は彼に反抗するチャンスを与えようとしなかった。
「もっと大事なことがあるはずだ、エリシア。」
「はい?あたしが開いたパーティーは大事じゃないって言うの?」
「……」
「新たな脅威はいつ現れるか分からない。次の律者はどんな形で誕生するか、僕たちは全然分からないんだ……」
「はい、その話はおしまい!全く、第七次崩壊がやっと落ち着いたのに、一日くらい休んだっていいでしょう?どうして自分にそんなに厳しくするのかしら?」
「はぁ。ケビンったら、ますますメイに似てきたわ……うっ、むしろこれ、あなたにとっては嬉しい言葉なのかしら?」
「しかし……」
「しかしはない!はい、着いたわよ!」
「彼女はケビンをあるドアの前に案内した。ドアは閉じられている。
男は仕方なく、少女の言われた通りにするしかなかった。
彼は決心をして、ドアを開けて中に入る――
「誕生日おめでとう、ケビン!」
突如やってくる光とクラッカーの音でケビンは思わず後ろに下がり、ドアに隠れていた人にぶつかりそうになる。
「ケビン、危ないッ!」
ドアの後ろにいる女性は声を上げ、なんとか手の中のケーキを落とさずに済んだ。
「……メイ?」
眼鏡をかけた女性は首を傾げて、優しく笑う。
エリシアは毛布を彼女に羽織らせる。部屋の中にいる人たちも集まって、その日の主役であるケビンを部屋の中心に迎える。
ケビンは呆気にとられた。その場にいるのは彼の知り合いばかりだった。
しかし、その瞬間の彼らは、普段では見られない表情や格好をしていた。
真っ先に目に入ったのはあの獣耳の少女だった。彼女は正装に着替え、普段の暗殺者の格好とは全然違う。彼女はケビンの視線に気付き、笑顔を返した。悩みを知らないような笑顔だった。
彼女の横にいる少女はいつものように念動力を駆使して、ケーキと八人分のプレゼントをテーブルに移動させる。
その中には緑色の箱があり、そこに来なかった者の代わりに、その「祝福」を贈っているようだ。
楽しそうな音が聞こえる。あの入隊初日から彼に四回も教育され、最後は大声で泣き喚いた男の子は――不器用にハーモニカを吹き、元のメロディーに近付けようとしている。
しかしすぐに別の声がケビンの気を引いた。聖潔な讃美歌が鼓膜を通り、ケビンの頭で響く。こんな形で彼女も参加するとは思わなかった。
それから、戦場で一度も迷いを見せていない男も――今は眉をひそめながら、誕生日ケーキをじっと見つめている。ロウソクの位置が気に食わないようだ。
その日、火を追う蛾の未来のリーダーと、人類で最初の七人の融合戦士は……
ある些細な理由で集まった。
「じゃあ、灯りを消すわね!」
エリシアの軽快な声が聞こえ、照明は消される。暗闇の中で、ロウソクの火だけが光り、揺れ動いている。
「ロウソクを吹いて、ケビン!願い事も忘れないでね!」
「どんな願い事も、きっと叶うわ!あたしが叶えてみせるから♪」
「エリシア……今のはメイのセリフじゃぞ。」
「えっ、そうだったの?サクラ、あたしが渡した台本はそんな風に書いてあった?」
「ふふっエリシア、自分が書いた台本を確認しなかったか?」
「そ……そんなことないわ!きっとみんなが読んだのは変更前のものよ!最終版じゃないから!」
男は頭を振り、思わず笑ってしまう。
ロウソクの火が揺れ、彼の冷たい体を照らし、遠い昔のことを思い出させる。あの頃は彼もあんな風に笑っていた。
そして、賑やかで楽しそうな雰囲気の中で、みんなに見守られながら、彼は俯いてロウソクの火を消した。
……
……
……
光が消え、賑やかな声も遠くなっていく。まるでその二つの間に、不思議な繋がりがあるようだ。
暗闇が徐々に世界を包み込み、灯りをつけてくれる人はもういない。
やがて、男の目は暗闇に慣れていく。
ぼやけた世界で、なんとか透明なガラスが見えた。単調な機械の音が聞こえる。
それ以外、何もない。
「……」
休眠装置は徐々に沈み、暗闇と静寂が全てを包み込む。
孤独な光が一つだけある。男の最後の夢、夢の中にいる人すべてを連れて、どんどん遠くなっていく。
メイ。
ディストピア。
メビウス。
コズマ。
アポニア。
痕。
それから……エリシア。
光が消えた。
全ての名前と、あの日の願いと共に。