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【追憶の皿】エリシア「無瑕の追憶」時系列順

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最初から

時期:第二次崩壊発生直後、エリシアが初出撃する前

登場人物:メビウス、エリシア

加入直後のエリシアとメビウスの会話。エリシアが戦場へ出撃する直前の出来事。第二次崩壊はエリシアのデビュー戦

エリシアが火を追う蛾へ加入した後、バッジ制度が変更になった。エリシアは正体を隠し、メビウスから古いバッジを回収。新人のエリシアがこれから現場に向かうため第二次崩壊の心配はしなくて良い、とメビウスへ教える。

メモ:メビウスの処罰通知は第二次崩壊の時点ですでに19枚。この頃から問題を頻繁に起こしていた模様。そのためかメビウスは実験室に閉じ込められ、第二次崩壊の状況を知らされていない。第二律者が討たれた後、メビウスは研究を急ぐあまり許可もとらずに律者の遺体を解剖した。メビウスの独断専行を防ぐために行動を制限していたのだろう。

全文

「……」
「わたしのバッジを回収する?急ね……どうして?」
「博士」と呼ばれた女性はそう答えた。緑色の髪を無造作に後ろに束ねた彼女は、医療用の拘束椅子の前に立ち、何かを考えているようだ。
拘束椅子に座っているのは、同じ火を追う蛾に属する普通の戦士。顔色は真っ青で、精神状態もあまりよくない――最近は彼のような患者が増えている。
「博士」はもうすぐ彼らの共通点を割り出せる。そのため、バッジのようなどうでもいいことに邪魔され、彼女は少し機嫌が悪くなる。
「それに……わたしの実験室に来るだけなのに、ガスマスクをつける必要はある?あなた、どの部門の人?新入り?」

彼女の後ろにいる、招かれざる客はガスマスクだけでなく、少しも肌を見せていない。
異常な光景に見えるが、実験室をよく知る者たちは理解している。一人でこの実験室に足を踏み入れるのは、かなり勇気が必要なことだ。

「ええ・・・バッジの配分制度に変更があったため、番号入りのバッジは回収することになりました。これからのバッジは番号なしのものになります。」
「ガスマスクに関しては……安全第一ですから、博士。」

「……」
「博士」は目の前にいる相手をじっと観察したが、特に変わったところは見つからなかった。
「ええ、分かったわ。」
問い詰めようとはしなかった。
彼女は実験台の前に行って、引き出しを開け、どこに仕舞ったかも分からないバッジを探し始めた。
19枚の処罰通知を取り出した後、彼女はようやく一番下の引き出しの隅から、裏に数字の「1」が刻まれたバッジを見つけて、入口にいる相手に渡した。

「ご協力ありがとうございます、メビウス博士。」
「新しいバッジは一週間内に実験室に送ります。」

「……待って。」
相手が実験室を出ようとした時、「博士」は彼女を呼び止めた。
「何も知らないと思わないで。」

「えっと……博士、意味がよく分かりませんが?」
「わたしに知られたくないのは分かってるわ。わたしが外に出ないように、色んな理由をこじつけて、わたしを実験室に閉じ込めていることもね……」
「でも、何かを理解するには、別に『その目で見ないといけない』わけじゃないでしょ。」

「……」

「第二次崩壊……状況は?」

「……」
「はぁ、博士……そういうことだったのね。」
「うーん……なんというか、あまり楽観的な状況ではないですね。けど、それはあくまで『一時的』です。」

「へえ?」

「なんと最近、可愛くて、美しくて、強い少女が、戦士として火を追う蛾に加入したんです。」
「きっと彼女なら、今回の崩壊を解決してくれると思います。」

「その人は今どこに?」

「あー、そうですね。彼女は今・・・『バッジを受け取る』ところでしょう。そう、唯一無二のバッジをね。なにせ、これからの任務は彼女にとってデビューみたいなものだから、ちゃんとおめかししないと。」
「心配しないで、彼女はすぐに戦場に向かいます。」
「あたしが保証する♪」

侵入者

時期:第二次崩壊以降~第七次崩壊までのどこか

登場人物:ヴィルヴィ、エリシア

ヴィルヴィ加入のきっかけと思われるエピソード。火を追う蛾の正体を探るヴィルヴィと彼女の居場所を特定したエリシア。

ヴィルヴィは火を追う蛾へメッセージを送り、マイクロ型ロボットを秘密のエリアに侵入させる。そこにはメビウスたった一人しかおらず何か独り言を言っていた。それを録音しようとロボットを操作していると、聞こえたのはエリシアの声。ヴィルヴィはエリシアに見つかってしまっていた。

メビウスの独り言「……ようやく手に入れた。あなたたちは……第一……」第一律者に関係?

時期について:加入時期の早いメビウス、エリシアのみの登場、それから崩壊が火を追う蛾によって隠蔽された時期であることから、早い時期の出来事である可能性あり。ただし、崩壊の隠蔽は七次崩壊の頃までしており、幅がある1漫画「伝承」より。世間には大火災として発表されるよう情報工作

全文

「成功した。」

少女はディスプレイを確認した。指ほどのサイズのマイクロ型自動ロボットは彼女の端末に画面を転送している。画面には、ある扉がゆっくりと開く様子が映っていた。

彼女は部屋の照明を少しだけ明るくし、自身の両手に目を向けて、すぐにやめた――爪を噛むのは悪い癖だ。彼女はそれを直そうと決める。

ディスプレイの中の扉はすでに開けられていた。
振り向いた彼女は、少し困惑する。
彼女でさえ多くの時間をかけて、ようやく侵入した誰もが知らない秘密のエリア……

「……緑色の髪のおばさんしかいないの??」

なら……「崩壊」とは、何なのだろう?今、彼女が侵入している組織が全力で隠す一連の災害…その本質とは、一体?

少女は壁に止まったマイクロ型ロボットを動かし、このエリアにいる唯一の人間にゆっくりと近づき、相手の独り言をより綺麗に録音しようとした。

「……ようやく手に入れた。あなたたちは……第一……」

よく聞こえない。
少女は飛行中のマイクロ型ロボットの音を思い出し、気を付けながら相手に近づかせようとするが……

「あら、やるわね。そんな深い場所まで調べたの♪」

「気付かれた!?」
手元が狂い、ロボットは緑色の髪の女性の襟に入ってしまう。
「違う、その声は明らかに……」

少女が我に返ったと同時に、柔らかい体がその背中にくっついた。
「……明らかに、私の近くにあった。」

少女は顔を伏せ、相手の顎が自身の肩に当てられても抵抗しなかった――まだ取り返しがつかないわけではない。彼女には、対策を考える余裕がある。

「あら――こんな景色はわたしでも初めてよ、あなたったら大胆ね。それで……ずっと火を追う蛾を調べてた人は、あなたなんでしょう、『ヴィルヴィ』?なんて可愛らしい名前なの。あなたも名前と同じくらい可愛らしいわね。」

相手の熱い吐息が当たる耳元が、少しくすぐったい。

「そういえば、あなたが昨日彼らに送ったメッセージを読んだわ。あなたを探すのに、一日も費やしたのよ……メッセージに書いてあった通りに考えると、わたしの勝ちよね。」
「あら、そのピアスも綺麗ね。どこで買えるか教えてくれる?」
「――ええ、焦らないで。どうわたしの相手をするか、ゆっくり考えていいわ。それまで、適当にお話しましょう♪」

ピンクのスパイさん

第七次崩壊収束後のエリシアの手術~第八次崩壊収束までのどこか

登場人物:エリシア、クライン、メビウス

エリシアがメビウスのPCから未発表の聖痕計画の資料を発見するエピソード。

エリシアはメビウスへのプレゼントとして、クラインにメビウスの肖像画を描くよう頼みに来た。そのついでにエリシアはメビウスのPCのパスワードを破ろうとする。実験室の天井に描かれた海の絵、生物の標本からエリシアはパスワードを推測。

「海から陸へ、細胞から生命へ……メビウス……」

エリシアの推測は見事に的中。メビウスが残した記録をひとつひとつ確認していくエリシア。すると、今まで見たことのない聖痕計画の資料を発見した。

聖痕計画:第八次崩壊収束後にスゥが執行者として勧誘を受ける。そのため、第七次収束後から第八次対応中までの間の出来事。

エリシアが手術を受けた順番に対するメビウスの疑問:エリシアの手術に許可を出したのはメビウス本人であるのに、エリシアが2番目だった「印象がある」という曖昧な表現。エリシアの謎に関係?

全文

「メビウス博士が……自画像を描いて、プレゼントしてほしいと?」
「しかも……今?博士は研究発表会に参加してるのでは?」

「うーん……あたしに聞かれても、分からないわ。なんといっても、あのメビウスだもの♪」
「彼女の変わった考えを、理解できる人のほうが少ないよね?」

「うん……でも……」
「はぁ。分かった、描くよ。」
少し迷ったが、クラインは持っていた報告書を置き、実験室を出て、アトリエに向かう。
彼女は普段からメビウスにそういう突拍子もないことをたくさん要求されて、もう慣れているようだ。
しかし今回は……

「ふふっ、あたしが用意したこのプレゼントを、メビウスが気に入ってくれるといいんだけど。」
実験室に残された少女は軽やかな動きで椅子から立ち上がり、メビウスの作業台に向かう。
「なにせ、優しい嘘は……彼女たちが『もっと仲よくなってほしい』という、少女の純真な願いだもの。」

「さて、あとは……少女の好奇心を満たす時間ね。」
エリシアはメビウスの作壁台を指に当て、笑いながらディスプレイに表示された入力校を見る。
「さて、あとは……少女の好奇心を満たす時間ね。」
エリシアはメビウスの作業台を指に当て、笑いながらディスプレイに表示された入力枠を見る。
「当ててみましょう。親愛なるメビウス……あなたはどんなパスワードにしてるのかしら?」

「うーん……まずは『エリシア』……あら、違うの?悲しいわ!」
「はぁ。次は『メビウス』と……えっ、これも違うの?」
「じゃあ……・『クライン』?違う?うーん……さすがに『メイ』はないのよね?」
「あっ、よかった……違うのね……」

少女は唇を尖らせ、メビウスの椅子に座ってぐるぐる回り始めた。
彼女は天井に描かれた変わった絵に気付く。――それは実験室の主人の個人的な趣味である。
青緑色のブロックが海水のようで、変わった形の黒い点はその海に生息する魚のように見える。
少女の視線はゆっくりと周りの壁に移る。そこには様々な動植物の標本があり、彼女の知っているものはあるが、知らないもののほうがずっと多い。
ふと、彼女は何かを思いつく。ぼんやりとした考えが、少女の頭の中でどんどん形になっていく。
「海から陸へ、細胞から生命へ……メビウス……」

少女は再びディスプレイの入力枠を見る——彼女はすでに答えを知っている。

【PASSWORD CONFIRMED】

「あら、さすがあたし!」少女は両手を頬に当て、声のトーンも明るくなる。
「みんなを愛してるあたしなら、みんなと心が通じ合ってるのも当たり前よね。」
「うん……なになに。研究記録、研究記録……あっ、見つけた。」

「少女は少し止まる。キラキラした瞳はディスプレイに表示された文字を映し出す。
そして彼女は顎を触りながら、意味深長な笑顔になる。

「あら、メビウス……やっぱりあたしのことを調べてるのね。」
「『誰に対しても情熱的だが、真意は不明。注意が必要……』え?そんな……真心でみんなに接してるのに、ひどすぎるわ。」
「『ケビンには負けたが、その後の行動を見ると、実力を隠していると考えられる……』もう、ケビンに勝てないのは本当なのに。少なくとも………今はね♪」
「『曜日を基準に太もものベルトの位置を調整する……』あら、そんなことまで気付いてくれてるの?嬉しいわ、やっぱりあたしのこと。が好きなのね。」
「『毎日髪型を少し変えている。その基準は不明。機嫌次第の可能性がある……」ブブー、はずれ――実は天気次第なの!コメントを入れてあげるわね。」
「『言葉遣いに一定程度、人を惑わす力がある。参考にする価値あり……』うーん……これが最近メビウスの実験を受け入れる人が多くなった原因なの?使用料を取ったほうがいいかしら?まあいいわ、あたしたち、友達だもの。」
「『本人の話によると、彼女はケビンの後、わたしの前に超変手術を受けた。わたしもその印象があるが、それに関する記録詳細は見つからない。疑問に感じる……』」
「……」
「……」
「……」
「うーん……なにこれ?今までの資料と少し違う気がする。なになに……うっ……わあ、すごいものを見てしまったわ……」

エリシアは狡猾に瞬きをし、次のページに進もうとした瞬間、よく知っている咳払いの音によって邪魔された。彼女は悪戯をした子供のような笑顔で、入口を見る。

「ハーイ、メビウス。やっと戻ってきたわね~」
「ちょうど、あなたに聞きたいことがあるの。」
「例えば、この『聖痕計画』というものとかね……」

降魔

時期:第八次崩壊収束後

登場人物:エリシア、千刧

閉じ込められた千刧と彼を外に出そうとするエリシアの会話。

千刧は律者に傷をつけたことがあるため、「刧種」とするべくエリシアは外に出そうとする。永遠の戦争を代価として千刧は外に出ることになった。

劫種:囲碁での劫(コウ)争いに有効な材料。コウとは、同じ形で互いに石を取り合うことが続く特殊な状況のこと。同じ形で石の取り合いを連続して行うのはルールで禁止されている。

囲碁用語:漫画「伝承」でも最終話でスゥが謎の超越的な存在に囲碁勝負を挑まれている。また、1つ目の追憶の皿のタイトル「星を並べる手」も囲碁に関連した言い回し。囲碁盤にある9つの黒い丸は「星」という。

全文

#訪問者:エリシア、身分確認クリア。#
#三級権限安全ドア、開放。#

「ふう。あなたに会うのって大変ね。可哀想に。」
「彼らがどれほどの見張りを置いたか分かる?まるで監獄みたいよ……逃げてみたほうがいいと思わない?」

「難しくはないが、意味はない。」

「あなた、千劫っていうんでしょ?あたしの友人に少し似てるけど、彼よりずっと野性的で…自由だわ。ねえ、血がつながってるとかじゃないのよね?仮面を外して、顔を見せてもらってもいい?」

「……」

「まあまあ、そう怒らないで、ただの冗談よ……そういう重苦しい雰囲気はさすがにあたしも困っちゃうわ。そうだ、楽しい話をしましよう。第八律者は夢の中でどんな幻像を見せたのか教えてくれる?」

「……灰燼だ。」

「うーん、その話もしたくないみたいなのね。やっぱり本題に入るわ。」
「あなたは誰に傷をつけたか分かるかしら?あれは冥河を通り、人の身では計り知れない存在……普通の人たちにとって、『神』と言っても過言ではないわ。」

「神?ハハッ……ハハハハッ……」

「やっと笑ってくれた、いい始まりね。さて、要点に入るわよ、千劫。」
「あなたをここから出せる人はあたし以外にいない。そしてあたしは……そうするつもりよ。」
「あなたは暗部の秘密と共に、ここに閉じ込められるべきじゃない。死ぬとしても……崩壊と対抗する戦場で死ぬべき、そう思わない?」

「本当のことを言え。」

「あら、あたし、嘘をついてるように見える?それとも、もっとストレートな言い方がいいの?じゃあ……別の言い方にするわね。」
あなたには『劫種』――牽制する駒になってほしいの。その日は……そう長く待たせられないわ。」

「火を追う蛾の駒か?」

「違う♪」

会話は終了した。
彼は彼女の言葉を待っていたが、相手は何も話さなかった。
しばらくして、暗闇の中で低い声が聞こえた。

「……」
「……代価は?」

「永遠に終わらない戦争を、あなたにあげる。」

入隊指導

時期:第十次崩壊収束後、オーストリアでのMM配剤実験の直後

登場人物:エリシア、華

融合戦士になった華の歓迎会。

エリシアが隊長に代わって華の入隊指導をする。物腰の固い華に、真剣な対談をせず女の子同士の気軽な話をしようと誘うエリシア。一ヶ月後の融合戦士だけの特別な舞踏会に、おめかししてちゃんと参加するよう勧めた。

メモ:エリシアの年齢は華と同じくらい

全文

「食べる?あたし一人じゃ食べ切れないから。」
エリシアは変わったスプーンを置いて、スイーツが入った容器を相手の前に置く。
「サンカの実で作られたものでね、呑み込む瞬間に3つの味がするから、昔ムーで流行ってたの。」
「でも今は黄金の庭に最後の一株しか残ってなくてね、次に食べられるのは1年後なの。」

若い隊員は頭を横に振る。

「名前は華、なのよね?今日からあなたも融合戦士の一員よ。隊長は今遠出してるから、あたしが代わりに歓迎会を開催することになったの。」
「あっ………自己紹介がまだだったわね。ごめんね、こういう堅苦しい場面は苦手なの。あたしはエリシア、一応この部隊のナンバーツー。あたしのことはエリって呼んでいいからね、みんなにはそう呼ばれてるの。」

「……よろしくお願いいたします。」

「まあまあ、そう畏まらなくていいわ、あたしまで緊張してきたじゃない。ねえ、何年生まれ?」

華は数字を口にする。

「あたしの予想と同じね。歳はそう変わらないし、敬語はいらないわ。」
「昔どんな部隊にいたかは知らないけど、ここでは上下関係なしよ。隊長のことをからかっても大丈夫なの――たとえば、彼の好きな子の話をするとかね。」
「だから、もっと楽にしていいからね。綺麗な顔をしてるから、友達はたくさんいるのよね?ここでもっと友達を作れると思うよ。みんな可愛らしい人ばかりだから、きっと仲良くなれるわ。」
「あっ、ずっとあたしが喋るのもよくないわね。あなたの話も聞かせて。さあ、どうぞ。」

「いいえ、そんなことないです。」
「ただ……この『入隊指導』は考えていたものとはあまりにも違うので。」

「あら。じゃあ、あなたが考えてた『入隊指導』はどんな感じなの?うーん……当ててみるわね。」
「あなたは初めてMeta……えーっと、MM配剤を通して超変因子に覚醒した者だから、何の疑いもなく、今の組織で最も期待されている新人でしょ。」
「みんなはあなたに期待を寄せてるから、もちろん融合戦士の意味を何度も繰り返すのよね。それから火を追う蛾の宿願とか、人類の未来とか、理想とか……それと使命をね。」
「でもあたしはそんな話をしない。」

ブルーのジェリーが容器の中で揺れ、少女の髪色と同じピンクを映す。
「人の話を繰り返すだけなんてつまらない、そうでしょ?」
「だから今日は真剣な対談とかはないの、リラックスしてお喋りしたいだけ。女の子同士の内緒話をしましょう。それがうちのスタイルだから、早く慣れるようにね。」
「まずは……そうだ、服の話から始めましょう。」

「服ですか?」

「忘れたの?来月は火を追う蛾の『伝統』の日よ。」
「融合戦士は基地の舞踏会に参加しない代わりに、あたしたちだけの舞踏会を行うの。少人数だとまた別の雰囲気になるから、楽しみにしてて。ちゃんとおめかしして、友達を作ってね~」
「それが入隊後の初任務よ。華、きちんと対応するように。だって……勤務評定もあたしが決めるんだから♪」

非天

時期:第十次崩壊収束後、千劫の融合手術前

登場人物:エリシア、千刧

千劫の融合因子である非天について、エリシアと千刧の会話。

非天はサクラの故郷で見つかった帝王級崩壊獣でサクラが倒した。帝王級というランクに比べて破壊力が高い。千劫とサクラは「あれ」を連れ戻すためにサクラの故郷に行った。サクラが見つけた時、非天は人間の悲鳴を上げていた。それで崩壊獣の名前が分かったという。

エリシアの「大自在天」と千劫の「非天」どちらが強いか。自分より強くなってもいじめないでねというエリシアに、千劫は「万物が滅びた時、お前も俺に殺される」と返した。

全文

「あら、すごい、見たことのない崩壊獣ね。あれほどの破壊を引き起こしたのに、ただの帝王級なの?名前は?」

「……非天。」

「あなたがつけたの?驚いた。あなたのことだから、『キバ破壊獣』とかにするかなって思ってたわ。」

「……やつが教えてくれたんだ。」

「教えてくれた?崩壊獣と会話できるなんて知らなかった……どうしてあたしに教えてくれなかったの?何、秘密主義者?」

「……」
「そういう力はない。サクラがやつを見つけた時、やつは『人間』の悲鳴をあげていた。

「へえ、サクラの故郷に行ったのは、あれを連れ戻すためだったの?そうよね、あなたたち二人が協力しただなんて、普通の任務なはずがないもの。」

「協力じゃない、サクラ一人でやつを倒した。俺はただ……その哀れな結末を見届けただけだ。」

「どうでもいいわ。けど……千劫、あたしは少し心配になったわ。あれの遺伝子を使って融合戦士になるの?」

「俺じゃ耐えられないとでも思ってるのか?エリシア。」

「まさか。ちょっと気になっただけよ。」
「融合戦士の中で末法型崩壊獣の遺伝子を使ったのはあたしだけだもの……「大自在天」と「非天」、どちらが強いか、漫画みたいな。対決だと思わない?」
「あら、あたし、また余計なことを言っちゃった?メビウスのところに行ってみるといいわ。万が一あたしよりも強い戦士になったら、あたしのことをいじめないでね。」

「エリシア……言ったはずだ。万物が滅びた時、お前も俺に殺される。」
「怖い、本当にそんなことができるの?そうだ、もう少しあたしの顔を見てみたらどうかしら?もしかしたら考えが変わるかもしれないわ。」

星を並べる手

時期:第十一次崩壊収束後

登場人物:エリシア、ケビン

英傑の順位を決めるエリシアとケビンの会話。

約束の惨劇により多くの融合戦士が散った。残った13人の戦士達は3つの都市※に振り分けられ、離れ離れになる。今まで戦ってきた戦士達に特別なポジションを与えたかったエリシアは、ケビンに相談しつつ十三英傑の順位を決めようとする。

※第十一次崩壊が収束した時点で残っていた都市

しかし、十三英傑が上層部に受け入れられないと予想したケビンは「僕たちだけで、できるはずがない。」と素っ気ない答えを返した。

全文

「じゃあ……スウは第七位にするけど、異議はないよね。」

「……」

「ケビン、黙ってないでよ。まだこの前のことを気にしてるの?大丈夫、もう怒ってないから。あなたの言った通り、あたしたちは過去 に執着しちゃだめなの。だから、あたしはこうやってちゃんと未来のために活動してるのよ。」
「古い友人の番号に関して、本当に何の意見もないの?なんでもいいからね。」

「エリシア、僕はまだ君が何をしようとしてるのか分かっていない。」

二人は実験室の中に立ち、データを眺める。大量のデータは淡い青の投影となって空間を埋めている。その前に立ったエリシアは 興味津々な顔でそれらを両手でいじっている。
この乱雑したデータの統計の中で、すでに彼女に綺麗に並べ替えられたエリアがある。彼女の指先はある人物の名前に止まり、少し 迷っている。

「ねえ、ケビン。そんなに黙っちゃって、もうあたしの目的が分かったのかと思ってたのに。例え分かってなくても、この状況下におい ての必要性は理解してるんでしょ?」
「ほら、みんなもうすぐ離れ離れになるわ。悲しいけどこれはチャンスでもあるの。あたしたちの重大な選択によって、より多くの主導権を握るためよ。
「あたしが作ろうとしてるのは……『ヒーローの組織』であり、人類最後の防衛線でもあるの。『火を追う十三英傑』、この名前はあなたを満足させられるかしら?」
「あっ、次の話は黙ってちゃだめよ。メビウスをどの番号にするべきか、あたしは決められないのよ。」

「君の言った必要性は確かに存在する、が……上の考えを君も理解しているはずだ。僕たちだけで、できるはずがない。

「できない?ケビン、そう言われると少しムッとするわ。人間関係に関して、あたしにできないことはないでしょ?」
「あたしたちはね……いい『始まり』が必要なだけよ。小さなきっかけさえあれば、全ての問題を解決できる。そう……こういう風にね。」
止まっていた指が再び動き始め、「メビウス」の名前は、第十位の場所に置かれた。

訪れる故人

時期:第十二次崩壊後のメイ博士のミーティング直後

登場人物:エリシア、エデン

エリシアが裏切り者として疑われた後の話。

メイ博士との会議で容疑は晴れた。エリシアの過去は謎が多いため、自分でも疑われるのは仕方ないと思っている。

メモ:エデンの記憶のメカニズムは他人と違う。楽園の記憶体を見れば分かる。エデンはエリシアが裏切ったことがないと「知ってる」。

全文

空高く昇る月。
エリシアは基地の頂点に立ち、紫色の花は彼女の指先で動き回り、月明かりに照らされながら、ゆらゆらと揺れている。
彼女は花の中にある崩壊エネルギーを溢れさせなかった。その紫色の光がより今夜の雰囲気に合うことにも関わらず。
「ハーイ、エデン。」

「あら、エリ。」
こんな時でも、女性は金の杯を持っている――彼女はいつものようにワインを味わっているのか、それとも、それを通して過去を思い出しているのか、誰も分からない。

「メイ博士の会議は終わったの?」

「ええ。誰も異常に気付くことなく、あなたの容疑は晴れたわ。」

「よかった。あたしは気にしてないけどね。こういう時期だし、みんなピリピリしてるもの。あたしの過去は確かに謎が多いし、疑われる。のも無理ないわ。」
「それにあたしは優しいから、みんなのことを許すわ。」
「ただ……少し気になるけど、ケビンはあたしのために何か言ったかしら?」

「賛成も否定も、彼は最後まで何も言わなかったわ。」

「いいの、それもあたしの想定内だわ。彼はシャイな男の子だから、昔はそうだったし、今後も変わらないでしょうね。」
「じゃあ、エデンは?」

「エリ、わたくしの記憶のメカニズムは他人とは違う、それを知ってるのよね。」

「もちろん。エデンが楽園に残した記憶体を見れば分かるわ。」

「だから、あなたは『裏切った』ことがないって、わたくしはずっと知ってるわ。」
「わたくしが心から賞賛できるものはとうに旧時代の中で消えた。今のわたくしは、そのどちらの仲間にもなるつもりはないわ。」

「ありがとう、エデン。」
彼女は手をそっと伸ばし、傷のない水晶のような花を彼方へ送る。
「なんか……こういう美しい夜景は久しぶりな気がする。」
「エデン、酒を持ってきたの?一杯どうかしら?」

配役

第十二次崩壊収束後、メイ博士との会議中

登場人物:エリシア、プロメテウス

エリシアの裏切りが疑われ、メイ博士が英傑を呼び出して会議中のエピソード。

一人で暇を持て余したエリシアはAIプロメテウスに相談。仲間割れを防ぐにはどうすればいいか?プロメテウスは「律者や崩壊を超える脅威が現れること」と答える。エリシアは「悪役になるのも悪くない」という結論を出した。

エリシアの台詞「世界があんな風になるのはもう見たくない」→前前文明が滅ぶところを見たことがある?

全文

「エリシア、先程あなたの体脂肪率を確認しました。前回より少し高くなっています。なので……」

「はい、そこまで!もう……どうしてそんなものを確認するの?メイがあなたをここに残したのは、別にそんなことをさせるためじゃないでしょ。」
「大事なのは感覚、データじゃないの。分かった?」

「……」

「いいわ、あなたにとって、それは少し難しいかもしれないしね。」
「けどね……プロメテウス、いつか理解するはずよ。」

「何を?」

「うーん……みんながどうして笑うか、どうして泣くか、何のために喜び、悲しくなるか……」

「人類の感情の原因に関する資料を閲覧したいなら、手伝いますが。」

「……」
「結構よ、プロメテウス。あなたと話をしに来ただけだから。」
「みんな、メイに呼ばれて会議に出たから、あたし一人で退屈なのよ。」

「感情の波動が大きいです、エリシア。」

「もう、プロメテウスったら………勝手に人の身体状況を調べちゃだめだって、メイに言われなかった?照れちゃうでしょ。」
「けどね、感情の波動は……少しあるかもしれないわ。」
「友達に疑われ、みんなに仲間外れにされて……そんなの、誰だって嫌でしょう?」
「本当は誰かと話したかっただけよ。」

「……」

「はぁ……そのヒビがどんどん大きくなるのを見るしかない日が来るとはね。」
「プロメテウス、あなたはあたしよりずっと分かってるんでしょ?」
「今の人類は、『仲間割れ』なんてとても耐えられないわ。」
「その理由や過程がどうであろうと……結果は一つだけ。」
「人類という種族は、自ら滅亡を招きます。」

「ええ、そうね。」
「だけど、この時代の人々は、こんなにも長く崩壊と戦ってきた……もっといい結末を手に入れるべきだって、そう思わない?」

「……」

「プロメテウス、どうすれば人類を再び一致団結させることができるの?」

「……」
「律者よりも恐ろしい敵、もしくは崩壊以上の脅威が出現した場合だと思います。」

「あら、同じことを考えてるのね。あなたはますますあたしに似てきたわ、プロメテウス。」
「争う暇すらなくなって、団結しないといけないほど強い敵……確かに一番いい方法よね。」
「けど同時に、最も難しい方法でもあるわ。」
「なにせ、律者以上に厄介な敵だとすれば……人類を一致団結させるか、それとも人類をそれよりも早く滅亡させるか、誰も分からないんでしょう?」

「……」

「はぁ。世界がまたあんな風になるのは、もちろん見たくないわ。けど、本当に取り返しのつかない状況になったら……」
少女は指先をあげ、薄い紫色の水晶の花を出す。
「……たまには物語のヒロインが、魅力的な悪役になるのも、悪くないでしょう♪」

予言

時期:第十三崩壊前後。前半が英傑発表後、後半はエリシア死亡後の話。

エリシア、アポニア

<前半の内容>

英傑を発表したホールでアポニアはエリシアに予言を伝える。人類の文明はもうすぐ終焉を迎え、遥かな未来に楽園もなくなってしまう。この文明は「やり直す」ことはできない。それに対してエリシアは面白そうと自身の予言を披露する。内容は「■■■■■■■■」(8文字)

千劫が起こした「大騒ぎ」:千劫の追憶の皿には、英傑発表のあたりで何か騒ぎを起こしたという話は書かれていない。

<後半の内容>

メイ博士が開いたミーティングから10日後、アポニアは再び同じホールに来てエリシアのことを回想。彼女はいつも明るかった。最期に故郷(オストク-51)を見た時も。

全文

「それはそうと、千劫は今回、本当に大騒ぎを起こしたわね……」
ホールの中で、二人の英傑が肩を並べて歩いている。
「彼はあなたのところに来たんでしょう、アポニア。何かあったの?」

「……」

「……あら、いろいろあったみたいね。言いたくないのなら…….話題を変えましょう。」
「あたし、嫌な予感がするの。変わった何かが……..あたしたちの中で音を立てずに広がってるような気がする。」

「エリシア、あなたが信じている『信頼』は………存在しない。」
「いくらあなたが私たちを集め、できるだけそれを維持しようとしても……いつか、バラバラになる。今のようにね。」
「私たちには『やり直す』可能性はない。」

「容赦のない言い方ね。それもあなたの『所見』なの?」

「ええ、荒れ果てた景色が見えた。」
「終焉が近づき、人類のあらゆる『準備』は泡沫となる。私たちが残した楽園も……遠い未来で崩れ、存在しなくなる。

「……」
少女は珍しく沈黙する。かつてこのホールで、彼女は自信満々に十三英傑の結成を発表した。
しかしやってくる律者は、この円卓に早すぎるヒビと、崩れる結末を与えた。

しばらくして、彼女は口を開く。
「その顔には驚きや恐れではく、いつもと変わらない悪賢い微笑みがあった。
「予言ね……こんなに面白いこと、あたしもやってみようかしら。」

「……?」

「あたしはアポニアのように特別な力を持ってないから、目の前のことしか見えないのよね。たとえば……」
「■■■■■■■■」

……

十日後、メイが開いたあの「ミーティング」から十一日目。ホールはいつものように広く、物寂しい。前回とは違い、そこにはアポニアー人しかいない。彼女はここで交わした会話を思い出す。あの時の少女は明るく、まるで明日の朝食の話をしているかのような口調だった。

彼女はいつも明るかった。最期に、故郷を見た時もそうだった。

「エリシア……」

アポニアはホールを出て、空を見上げる。
そこには無数の光る糸があった。
それは、彼女だけに見える運命の「糸」。
そして今、それらの糸は少しずつ虚無に消えていく。
まるで星を並べる手が、決められた未来を一つずつ抹消しているようだった。